極細の筆で対象物を克明に描く細密画家の松下愛さん。制作活動の傍ら、毎月、砂絵やにじみ絵、バブルアートなど、子どもが主体的に参加できる表現教室「こどものアトリエ」を主宰しています。
松下さんのアトリエでは年齢や障がいの有無に関係なく、2歳児から中学生まで、健常者も発達に特性のある子どもたちも一緒に活動。「もともと特別支援学校で美術の講師を務めていたのですが、その当時から健常者と障がい者を分けることがふに落ちなくて。これでは子どもたちも無意識のうちに垣根をつくってしまうと思うのです」
実際にアトリエでの子どもたちの様子を見ていると、仲間意識が生まれ、障がいを個性として受け止めている姿が見受けられるそう。美術は自分で感じて表現できる答えのない教科。「自分とは違う表現をしている子どもを見ると『それどうやるの?』と聞きに行き、そこからまた新たな表現や会話が自然と生まれるんです。子ども同士がそれぞれの違いを受け入れ、理解し合い、何か一つでも得られるものがあればうれしいですね」
アトリエ以外の時間も、自身の制作活動など多忙を極める松下さん。以前は「娘がいるから今日は制作をやめよう」と、子どものために自分を犠牲にすることが多かったそうですが、それだと窮屈に感じるようになりました。そこで最近は、教室も制作も家族を巻き込んで活動することにシフトチェンジしたと言います。
すると家族との関わり方にもうれしい変化が。もともと松下さんの活動を応援している夫の聖嗣さんは、教室の場を和ませようと子どもたちと会話してくれたり、娘の一花ちゃんは小さな子にハートの切り方を教えたりと、一緒に活動を盛り上げてくれる存在に。「仕事の現場でも娘の成長を感じられ、家族と一緒に過ごせる時間が増えてよかったです」とにっこり。
またアトリエでも大切にしていることは、絵を“教える・教わる”という一方的な関係性ではなく、子どもたちのアシスタント役に徹するという気持ち。「これは子育てにも通じるもので、親の目指すものを押し付けるのではなく、子ども自身が自分らしい人生を歩んでいけるようにサポートすることが私の役目だと思っています」
今後は、アトリエ以外に生活介護事業所を立ち上げることを目標にしている松下さん。「障がいのあるなしに関係なく表現することを楽しめ、みんなの居場所になるような場所を増やしていきたいです」と目を輝かせて語ってくれました。